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第93話 桐生家の沈黙①

作者: 花柳響
last update 公開日: 2026-07-21 06:00:58

 朝の書斎には、庭から上がる雨の匂いが残っていた。

 柱時計が、乾いた音を一つ刻んだ。

 窓は閉まっている。けれど、庭の濡れた砂利から上がる湿った空気が、どこか紙の匂いに混ざっていた。机の上には、昨夜のまま透明袋に入れられた古い写真と、九条家の関係図を閉じたファイルが置かれている。

 九条葵。

 その名前は、夜が明けても消えなかった。

 似ている、と律は言いかけた。

 言われなかったからこそ、残っている。

 私はカップに手を伸ばしかけて、やめた。中の紅茶はもう薄く冷めている。指先を温める役にも立たない。

「桐生グループ側から、一次回答が来ています」

 高瀬さんが、ノートパソコンの画面をこちらへ向けた。

 昨夜の端末持ち出し未遂と匿名投稿の件。投稿に使われた経路の一部に、桐生グループ関連会社の業務用ドメインが絡んでいた。正確には、桐生本体ではなく、広報支援やイベント運営を請け負う子会社のアカウントだった。

 そこまでなら、まだ言い逃れはできる。

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